規制・社会

電話とAI開発ツールを狙う攻撃、認証情報はなぜ漏れるのか

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POINT

  • Googleの調査により、大手金融・投資会社の社員に電話をかけ、IT担当者を装って認証情報やMFAコードを詐取する「ビッシング」攻撃が確認された。Apollo Global ManagementやBlackstone、KKRなど著名企業が標的になったとReutersが報じている
  • 並行して、AI開発ツール「LiteLLM」を経由したサプライチェーン攻撃により、Microsoft、Amazon、Nvidiaなど2,500以上の組織に関わる認証情報が流出。攻撃者はわずか40分で数百万件のシークレットを収集した
  • この記事を読むと、電話一本と一つのツールの脆弱性がなぜ大企業をも突破するのか、そして自分の業務でどこを見直せばよいかが分かる

電話一本で金融大手が狙われた理由

侵入経路はメールでもマルウェアでもなかった。社員の私用携帯電話への一本の電話だ。GoogleはFalcon、Helix、Pink、Redactと名付けたハッカー集団が、同僚やITヘルプデスク担当者を装い金融機関の社員に電話をかけていたと公表した

標的にされたのはApollo Global Management、Bain Capital、Blackstone、Bridgewater Associates、CME Group、KKR、Moody's、TPGといった大手プライベートエクイティ企業とReutersが報じている。電話口で誘導され、偽サイトに認証情報とMFA(多要素認証)コードを入力してしまえば、そこで侵入は完了する。

手口はこれだけではない。侵入後、盗んだデータの公開をちらつかせて恐喝サイトを運営する集団もいる。関連するウォレットの一つは今年の最初の数か月でビットコイン約1,000万ドルを受け取り、被害者一件あたり75万から300万ドルを要求していたという。過去には製造、不動産、医療、保険、運輸、接客業の大企業も同じ手口の標的になっている。金融業界に限った話ではない。

ビッシング(電話詐欺)攻撃による恐喝の規模と標的
関連ウォレットの受領総額 今年最初の数か月間(ビットコイン) 約 1,000 万ドル 電話一本で侵入後、多額の暗号資産を受領 被害者1件あたりの要求額 盗み出したデータの公開を背景とした恐喝 75万 300万ドル 0 75万$ 300万$ 攻撃の標的:金融大手から多様な主要産業へ拡大 標的業界 金融・投資 製造 不動産 医療 保険 テクノロジー 運輸 接客業 狙われた主な金融機関・企業の例 Blackstone Bain Capital KKR Bridgewater Apollo Global CME Group Moody's TPG 関連ウォレット受領総額(今年初め) 約 1,000 万ドル相当 ビッシング攻撃に関連するビットコイン受領額 被害者1件あたりの要求額 75万 〜 300万ドル 75万$ 300万$ 標的:金融大手から他業種へ拡大 【標的業界】 金融・投資 製造 不動産 医療 保険 テクノロジー 運輸 接客業 【主な標的企業例】 Blackstone Bain Capital KKR Bridgewater Apollo Global CME Group Moody's TPG
※関連ウォレットの受領額および報道・公表資料に基づく攻撃実態

AI開発ツールがなぜ数百万件の流出源になったのか

もう一つの事件は、規模が桁違いだった。AI関連の開発で使われるツール「LiteLLM」がサプライチェーン攻撃を受け、Microsoft、Amazon、Cisco、Samsung、Salesforceなど名だたる企業の認証情報が流出した。CloudSEKによれば、流出情報は2,500以上の組織へのアクセスに使われうるという報告がある。

発端は脆弱性スキャナーTrivyへの感染だった。攻撃者はTrivy開発者の自動化トークンを奪い、開発者側がトークンをローテーションしたにもかかわらず完全な無効化に失敗。その結果、約20日間にわたり、悪意あるコードを第三者のビルドへ強制的に書き込める状態が続いた。感染はKICSやTelnyx Python SDKにも波及し、最終的にLiteLLMの侵害版(バージョン1.82.7、1.82.8)がPython Package Indexの公式配布元からダウンロードされる形で広まった。

実際の抽出は3月、侵害されたLiteLLMが動いていたわずか約40分間に行われた。この短時間で、クラウドキー、リポジトリトークン、SSHキー、Kubernetesシークレット、AIプロバイダーキーなどが根こそぎ盗まれ、約434,000件のCI/CDパイプライン認証情報が露出したという。

Hudson Rockの共同創業者Alon Galは、この約40分間のLiteLLM依存関係の侵害によって、43万件超の事例において数百万件のシークレットが収集されたと述べている。

Nvidia、AWS、Samsung Electronics、ServiceNow、Siemens、Airbus、FedEx、Volkswagen、Deloitte、X Corp、Epic Gamesなど、業種を問わず名前が挙がっている。侵害の発見自体、Hudson Rockが入手した195TBものファイルを分析して初めて明らかになった。攻撃側が動いてから防御側が気づくまで、それだけの空白があったことになる。

二つの事件に共通する弱点は何か

電話とソフトウェア。手段は違っても、突かれている場所は同じだ。「本人確認」と「アクセス権限の管理」、この二つが機能していない瞬間を攻撃者は狙っている。

ビッシングは、社員が電話口の相手を信じてしまう瞬間を突く。サプライチェーン攻撃は、開発ツールが自動的に信頼され、誰も中身を疑わない瞬間を突く。どちらも「いつも通り」だと思った行動が突破口になる。

GoogleはUNC6671という、より大きな脅威アクター集団が複数の名前を使い分けている可能性を示しつつも、関連組織や分派関係、共通のフィッシング基盤の利用状況までは特定できていないと説明する。攻撃側の実像が曖昧なまま、被害だけが積み上がっているのが現状だ。

今日から見直すべき3つの行動

職種を問わず、今すぐ着手できることは限られているが、効果は大きい。

  • 電話での認証依頼は、かけ直して確認する。ITヘルプデスクや同僚を名乗る電話でパスワードやMFAコードを求められたら、その場で応じず、社内の公式連絡先に自分からかけ直す
  • MFAコードは「入力させられる」場面を疑う。偽サイトへの誘導は、URLを一目見ただけでは気づけないことが多い。ブックマークした正規サイト以外からログインしない
  • 開発・運用チームは依存関係の棚卸しを定期的に行う。LiteLLMの侵害版が公式配布元からダウンロードされていた事実は、「公式だから安全」という前提が崩れていることを示している。使用中のバージョンとハッシュ値を照合し、環境変数やシークレットのローテーション頻度を上げる

まとめ

電話の向こうの「同僚」を信じるかどうか、開発ツールの中身を疑うかどうか。どちらも数秒の判断が、数百万ドル規模の被害につながりうる時代になった。

特別なセキュリティ知識がなくても、疑わしい電話はかけ直す、ログインは正規の入口からだけ行う、この二つを徹底するだけで防げる侵入は多い。今日、自分の業務フローの中に「いつも通り」で信じてしまっている瞬間がないか、一度確かめてみてほしい。