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ヒューマノイド市場を巡る中国・米国・医療ロボットの動向

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POINT

  • 中国のUnitreeは前年出荷台数でFigureやTeslaの約36倍を記録。「Made in China 2025」主導の量産体制が、ヒューマノイドロボット市場の初期シェアを押さえつつある。
  • Uberの創業者Travis KalanickがロボティクスのAtomを設立し、フード・鉱業・交通へ専用ロボットを展開。外食・物流への実装が実験段階から事業化へ移行しつつある。
  • NVIDIAと35組織が医療ロボット向けデータセット「Open-H-Embodiment」を公開。778時間のCC-BY-4.0訓練データと基盤モデルが、外科ロボットのAI化を加速する条件を整えた。

中国が量産で先行する理由

ヒューマノイドロボットの世界出荷は前年13,317台。Forbesの推計では年率ほぼ2倍で成長し、2035年には260万台に達する見込みだ。この数字を牽引しているのは、中国メーカーの量産力である。

Why China's humanoid robot industry is winning the early marketによれば、2025年の出荷ランキングはAgibotとUnitreeが首位を占め、UBTech、Leju Robotics、Engine AI、Fourier Intelligenceが続く。Unitreeの前年出荷台数は、米国勢のFigureやTeslaの約36倍とされる。

背景にあるのは「Made in China 2025」だ。ロボティクスを優先分野に指定したこの国家計画が、サプライチェーン整備から資金調達まで一気通貫で後押しする。Unitreeは直近のSeries Cで評価額が約30億ドルに達し、将来のIPOで最大70億ドルを目指す。Galbotも3億ドル超の調達で評価額30億ドルに引き上がった。

ただし留意点がある。Forbesも認めるように、商用販売とデモ・パイロット配備の区別が出荷数に反映されていない可能性がある。「36倍」という数字は競争優位の方向性を示すが、実際の稼働台数と混同しないことが判断の前提になる。

チップ面では、中国の多くのスタートアップがNVIDIAのOrinチップで動いており、ソフトウェアスタックも同社がリードする。量産は中国が先行しても、基盤技術の依存構造は複雑だ。

中国ヒューマノイドロボット市場の成長予測と主要企業評価額
中国主要メーカーの評価額 Unitree (Series C後) 約30億ドル Unitree (IPO目標) 最大70億ドル Galbot (3億ドル超調達後) 30億ドル Unitreeの前年出荷台数は 米国勢(Figure/Tesla)の 約36倍 世界出荷台数予測 年率ほぼ2倍ペースで成長 (Forbes推計) 300万 200万 100万 0 2025年 2030年 2035年 13,317台 260万台 中国主要メーカーの評価額 Unitree (Series C後) 約30億ドル Unitree (IPO目標) 最大70億ドル Galbot (3億ドル超調達後) 30億ドル 世界出荷台数予測 年率ほぼ2倍ペースで成長 300万 200万 100万 0 2025年 2030年 2035年 1.3万台 260万台 Unitree出荷台数は米国勢の約36倍
※出荷台数はForbes推計。商用販売とパイロット配備が混在する可能性に留意。

Uber創業者が「フードと物流」に賭ける理由

Travis KalanickがAtomを設立し、フード・鉱業・交通の3領域でロボット展開を進めると発表した。既存のゴーストキッチン事業CloudKitchensをAtomに統合し、「wheelbase for robots」と呼ぶ専用ロボットのプラットフォームを構築する方針だ。

Kalanickが明言したのは「ヒューマノイドではない」という点である。汎用性より特定タスクへの最適化を選んだ判断は、外食・物流の現場を知る経営者ならではのリアリズムと読める。厨房で揚げ物をする、鉱山で資材を運ぶ——その動作に絞れば、人型の自由度は過剰だ。

Travis Kalanick launches a new company called Atoms focused on roboticsによれば、KalanickはAnthony Levandowski創業の自動運転スタートアップProntoの「最大投資家」でもあり、買収も「差し迫っている」と述べた。The Informationは、KalanickがUberの支援のもとWaymoより積極的な自動運転展開を目指していると報じている。

ゴーストキッチンで蓄積した注文データと厨房オペレーションのノウハウを、ロボット制御に転用するシナリオは理にかなっている。日本でも外食産業の人手不足が深刻化する中、「特化型ロボット+既存オペレーションへの統合」というアプローチは参照に値する。

医療ロボットに「共通言語」が生まれた

外科ロボットのAI化を阻んできた最大の壁は、データの断絶だった。各メーカーが独自データを囲い込み、学習に使える公開データがほぼ存在しなかった。

その状況を変えようとするのがOpen-H-Embodimentだ。Johns HopkinsのAxel Krieger教授、Technical University of MunichのNassir Navab教授、NVIDIAのMahdi Azizian博士が主導し、35組織が参加するコミュニティ主導のデータセット構想である。The First Healthcare Robotics Dataset and Foundational Physical AI Models for Healthcare Roboticsによれば、CC-BY-4.0ライセンスで778時間の訓練データを公開した。外科ロボティクスが中心で、超音波・大腸内視鏡の自律データも含む。

このデータから生まれた基盤モデルが2つある。

GR00T-H:外科タスクの最初のポリシーモデル

約600時間のOpen-H-Embodimentデータで訓練されたVLA(映像と言語指示を組み合わせてロボットの動作を出力するAIモデル)だ。CMR SurgicalやKukaなど商用・研究ロボット双方に対応し、SutureBotベンチマークでエンドツーエンドの縫合を実行できることを示した。異なるロボットの動作特性を共通の行動空間に変換する設計が、複数ロボットへの対応を可能にしている。

Cosmos-H-Surgical-Simulator:合成データで実臨床の壁を越える

従来のシミュレータはソフト組織の変形や血液・煙の再現で限界があった。このモデルは実データから組織変形と工具の相互作用を学習し、現実的な合成動画と動作データのペアを生成する。600回分の動作生成にかかる時間は、シミュレーションで40分、実環境での手作業なら2日——このコスト差が普及を後押しする。学習には64台のA100で約10,000GPU時間を要した。

次のバージョン2では、長時間の手術手順を通じて「説明・計画・適応」できる推論型の自律動作を目指す。開発者たちが「surgical robotics ChatGPT moment」と呼ぶ転換点だ。

Open-H-Embodimentと派生モデルの比較
基盤データセット 派生モデル 概要 データ・資源 対応ロボット 主な成果 Open-H-Embodiment 医療ロボット向け 公開データセット 778時間 (CC-BY-4.0) 外科・超音波・ 大腸内視鏡 35組織が参加、 データの断絶を解消 GR00T-H 外科タスク用 ポリシーモデル (VLA) 約600時間の データで訓練 CMR Surgical, Kuka など SutureBotで縫合実証、 マルチロボット対応 Cosmos-H 合成データ生成 シミュレータ 64台A100 / 約1万GPU時間 9種ロボット、 32データセット 600ロールアウトを 40分で生成 Open-H-Embodiment (データセット) 概要 医療ロボット向け公開データセット データ 778時間 (CC-BY-4.0) 対象 外科・超音波・大腸内視鏡 成果 35組織が参加、データの断絶を解消 GR00T-H (ポリシーモデル) 概要 外科タスク用ポリシーモデル (VLA) データ 約600時間のデータで訓練 対象 CMR Surgical, Kuka など 成果 SutureBotで縫合実証、マルチ対応 Cosmos-H (シミュレータ) 概要 合成データ生成シミュレータ データ 64台A100 / 約1万GPU時間 対象 9種ロボット、32データセット 成果 600ロールアウトを40分で生成
公開データセットを基盤に、ポリシーモデルとシミュレータが開発されている

日本企業の導入判断にどう使えるか

3つの動向を並べると、ロボット実装競争の現在地が見えてくる。中国は量産と資金調達で主導権を握り、米国の起業家は特化型ロボットで外食・物流の既存オペレーションへの組み込みを試み、研究コミュニティは医療向けの共通基盤を整え始めた。

日本企業が取るべき視点は2つある。ひとつは「汎用か特化か」の選択だ。Kalanickが示したように、特定タスクに絞った専用ロボットは今すぐ投資対効果を計算できる。ヒューマノイドは2035年の260万台市場を狙うには有望でも、現場導入の即効性では専用機に劣る場面が多い。

もうひとつは、データ戦略だ。Open-H-Embodimentが医療で実証したように、共通データ基盤を先に作った側が基盤モデルの主導権を持つ。製造・物流・農業といった日本が強みを持つ領域で、同様のコンソーシアム型データ構築に参加・主導できるかどうかが、5年後の競争力を左右する。

まとめ

ロボット実装競争の前線は、量産(中国)・外食物流(米スタートアップ)・医療(研究コミュニティ)の3方向で同時に動いている。どの領域でも「特化型タスクの自動化」と「共通データ基盤の先行確保」が勝敗を分ける構図は共通だ。自社の現場でROIが計算できる特化型ロボットを探しながら、業界横断のデータ連携に関与できるポジションを取ること——それが今の現実的な一手になる。